CCII 京都大学大学院医学研究科附属 がん免疫総合研究センター

GABAを標的とする抗腫瘍免疫機構
『Nature』誌に掲載された新しい論文は、さまざまな免疫細胞間の複雑な相互作用の調整において、神経伝達物質GABAが驚くべき役割を果たしていることを示している。


シドニア・ファガラサン 医学研究科教授 (理化学研究所チームリーダー)、章白浩 理化学研究所基礎科学特別研究員らの研究グループは、B細胞由来の「ガンマ-アミノ酪酸(GABA)」を標的とする抗腫瘍免疫機構を発見しました。

今回、本研究グループは、神経伝達物質として知られているGABAが末梢の活性化B系統細胞により、合成および分泌されることを発見しました。B細胞由来のGABAは、単球から抗炎症性マクロファージへの分化を促進し、インターロイキン-10(IL-10)の産生を増強することで、細胞傷害性T細胞の機能を阻害することが明らかになりました。また、マウスモデルでは、B細胞欠損またはB細胞特異的にGABA合成酵素GAD67を欠損すると、抗腫瘍免疫反応が増強されました。

免疫細胞由来代謝産物の生理的な活性を発見した本研究成果は、新たな抗腫瘍免疫療法や自己免疫疾患治療法の開発に貢献すると期待できます。

図:B細胞由来GABAを標的とする抗腫瘍免疫機構

腫瘍に対するT細胞の免疫応答を惹起することは同時に自己免疫疾患の発症を誘導するリスクをはらんでいる(上図)。B細胞から分泌されるGABAは、IL-10を産生するマクロファージを誘導することで、T細胞による腫瘍への免疫応答を抑制することができる。この発見により、GABAが腫瘍に対する免疫抑制メカニズムの一端を担っていることが明らかになり、さらにはこれが自己免疫疾患治療に応用できる可能性が示された(下図)。
出典:CCII

書誌情報

Baihao Zhang, Alexis Vogelzang, Michio Miyajima, Yuki Sugiura, Yibo Wu, Kenji Chamoto, Rei Nakano, Ryusuke Hatae, Rosemary J. Menzies, Kazuhiro Sonomura, Nozomi Hojo, Taisaku Ogawa, Wakana Kobayashi, Yumi Tsutsui, Sachiko Yamamoto, Mikako Maruya, Seiko Narushima, Keiichiro Suzuki, Hiroshi Sugiya, Kosaku Murakami, Motomu Hashimoto, Hideki Ueno, Takashi Kobayashi, Katsuhiro Ito, Tomoko Hirano, Katsuyuki Shiroguchi, Fumihiko Matsuda, Makoto Suematsu, Tasuku Honjo, Sidonia Fagarasan (2021). B cell-derived GABA elicits IL-10⁺ macrophages to limit anti-tumour immunity. Nature, 599(7885), 471-476. DOI: https://doi.org/10.1038/s41586-021-04082-1

本研究成果は、2021年11月3日に、国際学術誌「Nature」のオンライン版に掲載されました。

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