新規メタボロミクスプラットフォームのがん免疫研究への貢献

免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けた患者さんの生存率は、化学療法など従来の標準的な治療法を大きく上回るようになっています。しかし、免疫療法に良好な反応を示す患者さんの数は依然として少なく、また、免疫療法に対する抵抗性を獲得する患者さんもいます。

がん免疫療法の改善を目的とした臨床研究は増え続けており、現在何千もの臨床試験において、抗PD-1抗体との併用療法が検証されています。また、自然免疫反応を改善する方法として、がんや免疫細胞の代謝に注目する研究も増えています。

代謝を制御する物質は、免疫チェックポイント阻害剤を用いた併用療法の最も有望な候補の一つです。がん免疫を増強させる代謝制御物質の探索やメカニズム解明には、代謝物と腫瘍細胞とのクロストーク、および免疫細胞とがん細胞における細胞内代謝の両方について理解を深める必要があります。

CCIIで行われているメタボロミクスに関するアプローチは、これまでの島津製作所との複数年にわたる共同研究に基づいたものです。CCIIの研究者は、高度な液体クロマトグラフィー質量分析法（LCMS）を用いて血漿、免疫細胞、組織などから多数の代謝物や脂質を分析する、高度な分析プラットフォームを構築しました。この新しいプラットフォームでは、逆相および親水性相互作用液体クロマトグラフィーの両方を備えたLCMSにより、様々な生体試料中の代謝物濃度定量を可能にします（下図を参照）。

図：CCIIにおけるメタボロミクス/リピドミクスプラットフォーム

CCIIのメタボロミクス・プラットフォームを強化するため、島津製作所の研究者である園村和弘氏が2021年に当センターに客員准教授として加わりました。園村准教授は、CCIIのメタボロミクス・プラットフォームを強化し京都大学だけでなく当センターの研究者にとっても有用性を高くすることに研究の焦点を充てました。

CCIIのメタボロミクスプラットフォームにより、同センターの研究者は実験動物やヒト患者の末梢血中の数百の標的物質を定量し、その後、さまざまな臨床情報やフェノタイプと相関を検証できます。そして、などと相関のある代謝物や脂質に関しては、その機序を明らかにするために、さらなる研究を進めています。

さらに、CCIIと共同研究者のネットワークにより、現在、多くの有望な代謝制御物質の候補が同定されそのメカニズム解明・併用療法への応用に着手しています。1) また、個々の患者さんにおけるがん免疫療法の結果を予測する代謝物バイオマーカーの開発を進めています。2) 

書誌情報

1) Tanaka K, Chamoto K, Saeki S, Hatae R, Ikematsu Y, Sakai K, Ando N, Sonomura K, Kojima S, Taketsuna M, Kim YH, Yoshida H, Ozasa H, Sakamori Y, Hirano T, Matsuda F, Hirai T, Nishio K, Sakagami T, Fukushima M, Nakanishi Y, Honjo T, Okamoto I. Combination bezafibrate and nivolumab treatment of patients with advanced non-small cell lung cancer. Sci Transl Med. 2022 Dec 14;14(675):eabq0021. DOI: 10.1126/scitranslmed.abq0021.

2) Hatae R, Chamoto K, Kim YH, Sonomura K, Taneishi K, Kawaguchi S, Yoshida H, Ozasa H, Sakamori Y, Akrami M, Fagarasan S, Masuda I, Okuno Y, Matsuda F, Hirai T, Honjo T. Combination of host immune metabolic biomarkers for the PD-1 blockade cancer immunotherapy. JCI Insight. 2020 Jan 30;5(2):e133501. DOI: 10.1172/jci.insight.133501.