目標
- 免疫関連有害事象の予測・マネジメント戦略をもとにした新たながん免疫療法の確立
- 基礎研究から得られた知見の臨床現場への展開
- 臨床的エビデンスの集約とirAEコントロールチームの標準化
メンバー
教員
研究内容
先進諸国をはじめとして、がんに罹患する確率は50%近くにまでなっています。この現状において、がん治療のパラダイムシフトをもたらしたのが抗PD-(L)1抗体をはじめとしたがん免疫療法の登場です。がん治療の一つの選択肢として、がん免疫療法は今後ますます普及すると考えられますが、更なる汎用性拡大、効果増強を達成するためには未だ多くの課題が残されています。がん免疫治療臨床免疫学部門では、これらの課題の一つであるがん免疫療法に伴ういわゆる副反応、免疫関連有害事象(immune related adverse event, irAE)の分子機序の解明と臨床現場へのフィードバックを目指して研究を行なっています。
副反応を抑える過度な免疫抑制は、がん免疫療法の効果そのものも減弱させる一方、その効果を増強するのみに注力すると自身を攻撃してしまう有害事象のリスクが増加すると考えられます。このような一見矛盾する課題を解決する技術が確立できれば、治療の安全性を事前に判断できるだけでなく、副反応で治療中断を余儀なくされたがん患者さんも治療を継続できるようになるようないわば「有害事象の少ないがん免疫治療」を開発できることが期待されます。理想的ながん免疫療法を実現するためには、がんに対する免疫応答、自己に対する免疫応答の詳細を体系づけて捉えることが必要不可欠です(参考図)。
図:抗腫瘍免疫応答と免疫関連有害事象は同一個体内で起きる反応である
この考えに基づき、当部門ではがん免疫療法によって変化する免疫系細胞の動態変化や、がん患者の多くを占める高齢者に特有の免疫学的特徴から、がん免疫療法の安全性、応答性を決定する因子を明らかにする研究を行なっています。このような前臨床研究を通じて、これまでに、がん免疫療法に伴う免疫関連有害事象に関わる候補因子を特定し、現在は抗腫瘍効果とirAE症状の改善を両立する複合がん免疫療法の開発の基盤を構築しています。
臨床現場では、irAEの程度や障害臓器には多彩な個人差があり、しばしばその制御に難渋することがあります。そこで当部門では京都大学医学部附属病院と連携し、がんの治療に直接携わる診療科だけでなく、免疫異常の診断・治療に関わる診療科とも共同してがん免疫療法の安全性を診療面でサポートする体制を構築しています。具体的には2021年10月から、院内で「irAEユニット」を立ち上げ、院内の癌患者さんの診療サポートを継続しています。さらに、irAEの病因・病態を解明するためにがん免疫療法について院内臨床情報の統括的な解析や血液検体を主体としたバイオリソースの免疫学的検討を行うべく、京都大学医の倫理委員会に基づき、前臨床研究も展開しています。
以上のように、当部門では、分子生物学的基礎研究の観点と患者を診る医師としての観点から双方向性に研究を推進し、bench to clinicを実現したいと考えています。
主な論文
Tsukamoto, H., Komohara, Y., Tomita, Y., Miura, Y., Motoshima, T., Imamura, K., Kimura, T., Ikeda, T., Fujiwara, Y., Yano, H., Kamba, T., Sakagami, T., Oshiumi, H. Aging-associated and CD4 T cell-dependent ectopic CXCL13 activation predisposes to anti-PD-1 therapy-induced adverse events. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 119, e2205378119, 2022. doi: 10.1073/pnas.2205378119.
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