学歴
- 1987: 東北大学大学院薬学研究科薬学専攻修了
- 1989: 東北大学大学院薬学研究科修士課程修了
- 1998: 東北大学大学院薬学研究科博士課程修了(薬学博士)
職歴
- 1998-1999: 博士研究員、東海大学医学部(日本、伊勢原)
- 1999-2000: 助手、北海道大学 免疫化学研究所(現・遺伝子病制御研究所)(日本、札幌)
- 2000-2004: 客員研究員、National Institute of Allergy and Infectious diseases, National Institutes of Health (Bethesda, MD)
- 2004-2010: 助教授、Department of Pharmaceutical Sciences, Northeastern University (Boston, MA)
- 2010-2015: 首席研究員、New England Inflammation and Tissue Protection Institute, Northeastern University (Boston, MA)
- 2015-2016: 講師、Center for Drug Discovery, Northeastern University (Boston, MA)
- 2016~: 部長、神戸医療産業都市推進機構 先端医療研究センター 免疫機構研究部(日本、神戸)
- 2017-2021: 准教授(非常勤)、京都大学大学院医学研究科(日本、京都)
- 2021~: 客員教授、京都大学大学院医学研究科がん免疫治療・免疫生物学センター(日本、京都)
研究内容
免疫制御メカニズムを標的とした疾患治療
生体内の免疫システムには多様な活性化メカニズムや抑制メカニズムが備わっており、免疫反応のタイプや強度はこれらによる制御を受けています。しかし、時にその制御は完全ではなく、免疫反応が不十分であれば細菌、ウイルスなどの病原体やがん細胞の増殖を許してしまう危険性が増します。反対に、免疫細胞の不必要なまでの活性化はアレルギー性疾患、自己免疫疾患を含む数々の炎症性疾患の原因となります。
PD-1は、免疫システム中の抑制メカニズムの中でも影響力の強いものの一つです。PD-1を欠損するマウスが各種の炎症性疾患を自然発症してしまうことに示されるように、このメカニズムによって無用な炎症反応は抑制されています。普段はそれを発現している細胞があまり見られないPD-1ですが、活性化した免疫細胞において発現レベルが増加します。このことは、PD-1が炎症反応を抑制する生理的なフィードバック機構として機能していることを示唆しています。実際に、がん組織もこのような免疫調節メカニズムを利用してがんに対する免疫応答を抑えており、抗PD-1抗体に代表される医薬品は免疫抑制を解除する新しいがん治療法として好成績を挙げています。
PD-1アゴニスト抗体
炎症性疾患の患者数は増加傾向にあり、新規医薬品が次々と登場する一方で、まだ有効な治療法が確立されていない疾患が多数存在します。がん治療の場合とは逆に、炎症性疾患の治療には、生体内の免疫抑制メカニズムを積極利用する戦略が有望です。がん治療に用いられている抗PD-1抗体はPD-1の活性を遮断するブロッキング抗体ですが、我々はPD-1の免疫抑制活性を積極的に誘導するアゴニスト抗体を利用することにしました。そのような目的にかなう抗体を探索するために、我々は抗PD-1抗体添加によって誘導される生物活性を検出するスクリーニングシステムを樹立し、免疫抑制活性を刺激できる抗PD-1抗体を見出しました。興味深いことに、これらのアゴニスト抗体は全てPD-1分子の膜近傍部を認識しており、PD-L1結合部を認識するブロッキング抗体とは別のグループに属するものでした。
この抗PD-1アゴニスト抗体をマウスに投与すると、炎症疾患に対して明確な効果が現れました。その免疫抑制作用は、CD4+もしくはCD8+ T細胞主体の炎症およびB細胞からの抗体産生に及ぶ、汎用性に富むものでした。今後は、医薬品としての応用を視野に入れ、我々の取得したPD-1アゴニスト抗体の免疫系への作用を解析していく予定です。このような解析は、医薬品開発に留まらず、PD-1を介した免疫制御を理解する上でも意義があると考えています。
診断マーカーとしてのT細胞活性化
特定の抗原に対するT細胞の活性は、疾患の発症に強い影響があると考えられます。たとえば、ウイルス抗原、腫瘍関連抗原、または自己抗原を認識するT細胞の活性は疾患に対する感受性や抵抗性に影響し、疾患の転帰に重要な意味を持つはずです。これらの疾患における感受性、抵抗性といったものは個々人のT細胞の反応性に反映されると考えられるので、その状態が事前に把握できれば診断、治療に利用価値のあるものに繋がります。我々は、末梢血中のT細胞を使用して、短時間で抗原特異的な細胞を検出する方法を開発しています。ヒトPBMCでは、mRNAやタンパク発現レベルの解析が多岐にわたって行われておりますが、機能面での解析は比較的手薄な分野です。我々はヒトPBMCを抗原で刺激し、T細胞に起こる変化の診断マーカーの評価を行っています。
主な論文
Ohta, A., Sitkovsky, M. Role of G-protein-coupled adenosine receptors in downregulation of inflammation and protection from tissue damage. Nature 414:916-920 (2001). DOI: https://doi.org/10.1038/414916a
Sitkovsky, M.V., Lukashev, D., Apasov, S., Kojima, H., Koshiba, M., Caldwell, C., Ohta, A., and Thiel, M. Physiological control of immune response and inflammatory tissue damage by hypoxia-inducible factors and adenosine A2A receptors. Annu Rev Immunol 22:657-682 (2004). DOI: 10.1146/annurev.immunol.22.012703.104731
Ohta, A., Gorelik, E., Prasad, S.J., Ronchese, F., Lukashev, D., Wong, M.K.K., Huang X., Caldwell, S., Liu, K., Smith, P., Chen, J.-F., Jackson, E.K., Apasov, S., Abrams, S., and Sitkovsky, M. A2A adenosine receptor protects tumors from anti-tumor T cells. Proc Natl Acad Sci U S A 103:13132-13137 (2006). DOI: 10.1073/pnas.0605251103
Ohta, A., Sitkovsky, M. Extracellular adenosine-mediated modulation of regulatory T cells. Front. Immunol. 5: 304 (2014).
Hatfield, S.M., Kjaergaard, J., Lukashev, D., Schreiber, T.H., Belikoff, B., Abbott, R., Sethumadhavan, S., Philbrook, P., Ko, K., Cannici, R., Thayer, M., Rodig, S., Kutok, J.L., Jackson, E.K., Karger, B., Podack, E.R., Ohta, A., Sitkovsky, M. Immunological mechanisms of the anti-tumor effects of supplemental oxygenation. Sci Transl Med 7: 277ra30 (2015). DOI: 10.1126/scitranslmed.aaa1260
Ohta, A. A Metabolic Immune Checkpoint: Adenosine in Tumor Microenvironment. Front Immunol 7: 109 (2016). DOI: 10.3389/fimmu.2016.00109
Kjaergaard, J., Hatfield, S., Jones, G., Ohta, A., Sitkovsky, M. A2A Adenosine Receptor Gene Deletion or Synthetic A2A Antagonist Liberate Tumor-Reactive CD8+ T Cells from Tumor-Induced Immunosuppression. J Immunol 201: 782-791 (2018). DOI: 10.4049/jimmunol.1700850
Ashoori, M.D., Suzuki, K., Tokumaru, Y., Ikuta, N., Tajima, M., Honjo, T., Ohta, A. Inactivation of the PD-1-dependent immunoregulation in mice exacerbates contact hypersensitivity resembling immune-related adverse events. Front Immunol 11: 618711 (2021). DOI: 10.3389/fimmu.2020.618711
Wang, G., Tajima, M., Honjo, T., Ohta, A. STAT5 interferes with PD-1 transcriptional activation and affects CD8+ T-cell sensitivity to PD-1-dependent immunoregulation. Int Immunol 33: 563-572 (2021). DOI: 10.1093/intimm/dxab059
Suzuki, K., Tajima, M., Tokumaru, Y., Oshiro, Y., Nagata, S., Kamada, H., Kihara, M., Nakano, K., Honjo, T., Ohta, A. Anti-PD-1 antibodies recognizing the membrane-proximal region are PD-1 agonists that can down-regulate inflammatory diseases. Sci Immunol 8:eadd4947 (2023). DOI: 10.1126/sciimmunol.add4947