免疫チェックポイント阻害治療は様々ながん種に適応され、その高い効果が評価されていますが、まだ解決すべき問題点が残されています。CCIIの研究は、副作用を減らし、抗腫瘍効果を最大限に発揮できる併用治療や、新しい考え方に基づいたがん免疫療法の開発を行います。そのためにはがん免疫療法に関連した基礎研究と臨床研究の両輪を推し進める必要があります。またこれらがん免疫研究を通して複雑な生命現象の基本原理が明らかになるとと期待できます。
1) がん免疫療法の効果向上に向けた研究
近年、日本をはじめ世界各国で、抗PD-1/PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体、CAR-T細胞療法などが続々と承認されており、いまやがん治療において免疫療法は標準治療として確立されつつあります。実際、従来の治療法では治療が難しかった多くの症例において、がん免疫療法は画期的な治療効果を上げてきました。
現在では、治療効果を向上させるために化学治療、分子標的治療、放射線治療等の既存のがん治療との併用治療が実臨床で実施されています。しかし、残念ながら、半数以上のがん症例でこれらの治療法が奏効していないことは重要な課題です。今一度基礎に立ち戻り、まだ未解明であるがん免疫治療への抵抗性の理由、そして抗PD-1抗体の作用機序をより深く理解することにより、がん免疫治療の治療成績を向上させることを目指します。
がんに対する免疫力は、がんの特徴のみならず、患者さんの異なった生活習慣や遺伝背景によっても複雑に制御されていることが明らかとなってきました。そのため不応答の原因を追求するためには、幅広い手法を駆使して多角的に研究を行う必要があります。現在、CCIIではゲノム、プロテオミクス、メタボロミクスといった最先端技術を用い、動物モデルや患者検体を対象として集学的研究を実施しています。またこれまでのCCIIにおける基礎研究成果を基に、いくつかの新しい併用治療を開発し、臨床試験を行っています。なお臨床試験は、京都大学医学部附属病院、臨床研究支援組織である先端医療研究開発機構(iACT)、早期臨床試験を行う次世代医療・iPS細胞治療研究センター(Ki-CONNECT)との連携のもとに行われています。
2) 有効性を見分けるバイオマーカーの研究
がん免疫療法は一度効いた症例はしばしば長期的に奏効する一方で、効果のない症例にはいくら投与しても効果がない薬剤の特徴を有していることがわかっています。現在、医療費は高騰しており、効果のある症例とない症例を正確に層別化することが求められています。CCIIでは、京都大学医学部附属病院クリニカルバイオリソースセンターと連携し、免疫チェックポイント阻害治療を受けた患者さんのサンプルを積極的に収集しています。これらの検体を用いて、幅広い手法を駆使し奏効した症例と奏効しなかった症例の相違点を多角的に研究しています。またこれらの研究は、究極的にはヒトにおける免疫力の違いとは何かという根源的な生物学への問いを解明することにもつながります。免疫はウイルス、自己免疫、老化等様々な疾患につながりますので、これらの研究は他分野への発展にも寄与することが予想されます。
3) 臨床と基礎研究の連携による免疫関連副作用(immune-related Adverse Events: irAE)の研究
免疫関連副作用(以下「irAE」)は、がん免疫療法に伴って発症することがよくみられる合併症であり、皮膚発疹のような軽い症状から、自己免疫性心筋炎のように生命を脅かす重篤なものまで、患者により様々です。しかし、どの患者が、どの臓器でこれらirAEを発症するか予想できません。そこでCCIIでは、irAEを発症した経験をもつがん患者さんの組織サンプルや臨床データを集めたバイオバンクを構築することで、がん免疫療法の改善に向けた戦略的な研究を進めています。irAEの根底をなす免疫生物学の理解を深めることは、より良い安心ながん免疫療法の開発につながります。また、それに付随して必要なデータや興味深いヒト疾患モデルを集めることも可能になると考えられます。なお、この研究は、京都大学医学部附属病院と臨床研究支援組織である先端医療研究開発機構(iACT)との強い連携のもとに行われています。